世界中で人気のバーチャルシンガー「初音ミク」の生みの親で,クリプトン・フューチャー・メディア株式会社(本社札幌市,創立1995年)代表取締役の伊藤博之・京都情報大学院大学(KCGI)教授による特別講義が2024年12月6日(金),京都コンピュータ学院(KCG)京都駅前校・KCGI京都駅前サテライト6階大ホールで実施されました。KCGI・KCGの学生たちはコンテンツビジネス最前線で活躍する第一人者の講義に熱心に聴き入りました。伊藤教授は「初音ミク」が誕生した経緯と成長過程,音声技術・3DCG技術への先進的な取り組みや,国内外での活躍について映像を交え分かりやすく解説しました。特別講義は札幌・東京サテライトなどの学生のため,オンラインで同時配信されました。
「初音ミク」は2007年8月31日に誕生したバーチャルアイドルです。歌詞とメロディを入力すると音声合成で歌ってくれるソフトウェアであり,「身長158センチ,体重42キロ,16歳」の人気キャラクター。得意ジャンルはアイドルポップスとダンス系ポップスです。国内外でライブコンサートが開催され,日本文化を世界に発信するクールジャパンの象徴的存在になっています。
「初音ミクから学ぶデジタルコンテンツの可能性」と題した講義で,伊藤教授はクリプトン社の事業を紹介したうえで音楽とテクノロジーの関係と歴史,コンピュータ・ミュージックの基礎などを説明。そして「ヤマハが開発した歌声合成技術を使うと,人の歌声のバーチャル・インスツルメント(仮想楽器)も作れる」との発想から「初音ミク」を生み出し,「歌声合成ソフトとしてリリースしました。キャラクターをくっつける試みは当社が初めてです」といきさつを明かしました。
キャラクター化が功を奏し,音楽だけでなく「初音ミク」のイラストやCG,コスプレなどを創作してインターネットに投稿する人たちが次々に現れ,創作の連鎖が世界中に拡大。創作の連鎖が無断使用の連鎖にならないようにするため「当社が持っている権利を開放することと,ファンが作った二次的著作物をどうやってほかのファンに使わせるかに取り組みました」と説明。「初音ミク」の利用を許諾するためのライセンス発行,投稿サイト「piapro(ピアプロ)」開設により権利クリアランスの環境を整えたことを解説し「創作したファン同士が憎み合うのではなく,ありがとうと言い合える連鎖にしたかったのです」と思いを語りました。
「初音ミク」は誕生から17年がたち,たくさんのクリエイターによる二次創作・三次創作の結果,歌や音声にとどまらず,ダンスや動画,フィギュアなどへと表現形態が多様化しました。新開発技術の活用によって成長し,表現力,歌唱力もどんどん豊かになり,ファッションやフルオーケストラでのコンサート,ゲーム,歌舞伎とのコラボレーションなど,活動フィールドは拡大の一途です。伊藤教授は「デジタルコンテンツは,どんどん公開していろんな人に使ってもらえばもらうほど価値が増えると思っています」との見解を示し,多様なジャンルのクリエイターや企業などと進めているコラボ事例を紹介しました。
コロナ情勢沈静化に伴い,「初音ミク」活躍の場が復活・増加しています。公演やイベント出演が続き,毎年開催されている3DCGライブと創作の楽しさを体感できる企画展イベントは「初音ミク『マジカルミライ2024』」として8月から10月にかけ福岡,千葉(「in TOKYO」),大阪で催されました。2025年4月19日からは,日本全国を巡るライブツアー「初音ミク JAPAN LIVE TOUR 2025 ~BLOOMING(ブルーミング)~」が東京,大阪などの7会場で開催されます。同年5月には中村獅童さんと共演する「超歌舞伎 〈CHO-KABUKI〉Powered by IOWN『今昔饗宴千本桜 Expo2025 ver.』」が,大阪・関西万博で上演されることも決まっています。
海外版マジカルミライともいえる「MIKU EXPO」は,コロナ感染で開催を見合わせる直前の「HATSUNE MIKU EXPO 2020 EUROPE」以来となるリアル開催で,4月から5月まで「MIKU EXPO 2024 North America」として北米17都市を回り,各会場とも大盛況でした。10月~11月は英,仏,独などでの「MIKU EXPO 2024 EUROPE」,初めて豪・ニュージーランド5都市を巡る「HATSUNE MIKU EXPO 2024 New Zealand & Australia」を開催しました。北米ツアー中は米国最大級の音楽フェス「コーチェラ」にも出演しました。コラボイベント・商品発売も相次ぎ,観光キャンペーンや花火大会への参加など,2024年はこれまで以上に幅広いジャンルで展開しています。4月からは「クレヨンしんちゃん×初音ミク」のグッズ販売が始まりました。商品展開は,ファッションから文具,電気部品まで広がっています。
「初音ミク」は社会貢献にも取り組んでいて,2024年はこれまでの活動に加え,元日に起きた能登半島地震の復興支援を目的にした「HATSUNE MIKU CHARITY PROJECT(ミクチャリティ企画)」を3月まで展開しました。
伊藤氏は,2013年4月にKCGI教授に就任しました。同年秋には国際的な活動と技術革新が認められ,藍綬褒章を受章しています。KCGIとKCGには相互に授業を聴講できる仕組みがあります。KCGIのコンテンツビジネス関連を学ぶ学生だけでなく,KCGのアート・デザイン学系,デジタルゲーム学系,コンピュータサイエンス学系情報処理科IT声優コースなどコンテンツ関連の学生たちも,伊藤教授の取り組みから多くを学ぶことができます。