クリスマスはいつ?

紀元前後の惑星会合の計算結果です。
日付はすべてグレゴリオ暦値で,ユリウス暦値は2日加えたものです。 暦変換

出雲さんのページ

惑星会合へ戻る


 大きな明るい星の出現と言えば歴史的・伝承的に有名なのはイエスの誕生の時現われたという「ベツレヘムの星」です。この星についての記載は新約聖書のマタイ福音書のみでその出現自体にも疑問があります。当時の大文明国のローマ帝国にも漢帝国にもこの記録は伝わっていないのですから。しかし文献考証はさておき,とにかくマタイ福音書第2章の記述通り考えてみます。「あれは誤記事だ,これは捏造だ」なんて言ったらそこでおしまい,そんな夢のない話はやめましょう。

 東方の博士たちがエルサレムに来てこう言った。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方はどこにおいでになりますか。私達は,東のほうでその方の星を見たので,拝みにまいりました。」・・・(中略)・・・すると見よ,東方で見た星が彼らを先導し,ついに幼子のおられる所まで進んでいき,その上にとどまった。

まず「東方」とはどこでしょうか?ユダヤから見て東方,その中で文化の中心といえばバビロンを指すと考えるのが妥当でしょう。バビロンは古代オリエントの文化都市であり,占星術も発達しそこには星占いに長けた博士(=マギ)もいたはずです。
 東方の博士はこの星をかってバビロンで見て,ユダヤに着いてから再び見たというのだから,同じ現象が2度あって

  • 1回目はバビロンで西天(ユダヤの方向)に見た。
  • 2回目はユダヤに着いてから見た,この日がイエスの誕生日。 と考えられます。
     では「ベツレヘムの星」の出現はおおよそいつ頃でしょうか?当時ユダヤはローマの属国でしたが,ヘロデ王が在位していました。新約聖書によると彼は新しく生まれた子がユダヤの王になることを恐れて,乳飲み子のイエスを殺そうとしました。そのことを天使ガブリエルから聞いたマリアとヨセフはエジプトに逃れ,イエスは幼年期はエジプトで暮らします。ところがユダヤにはヘロデという王は複数いて,父ヘロデ大王が亡くなり,息子のヘロデが継いだのがBC4年といわれています。イエスが十字架に架けられた時の王は息子のヘロデですが,生まれた時はどちらかわかりません。細かいことは専門家に任せて,王位継承時期の前後と考えましょう。
     では「ベツレヘムの星」の候補として何が考えられるでしょうか?超新星・新星・変光星・彗星・惑星集合・その他・・・。でも「同じような現象が2度あった」という条件を重視すると,初めの3つは恒星の現象ですから不適です。彗星出現は夕方西の空に現れ,数日後には見えなくなり,その後日の出前に東天で見えるということが多いので候補となりえます。実際BC5年に現れていますが,その記録は中国だけです。この条件にふさわしいのはやはり惑星集合と考えるのがベストでしょう。 BC7年からAD1年までの1°以内の惑星会合のペアは多数あります。 しかしバビロンからユダヤまで歩いて旅をする日数は2〜3ケ月でしょうから,その間隔を考慮すると下表のように3件に絞られます。
    ------------------------------------------------------
        年月日       時刻	  惑星名            星座
    ------------------------------------------------------
    BC7年 6月8日    後半夜  木星・土星           うお
          9月12日   終夜    木星・土星           うお
         12月17日   前半夜  木星・土星           うお
    BC2年 6月3日    日没後  水星・火星           ふたご
          6月15日   日没後  金星・木星           しし
          8月24日   日出前  水星・火星・木星      しし
    AD1年 8月9日    日没後  水星・火星           おとめ
          9月12日   日没後  水星・木星           てんびん
         11月3日    日出前  水星・金星・火星・木星 てんびん
    -----------------------------------------------------
    
    BC7年に木星・土星がうお座で3回連続して会合を起こしていますが,この3連会合は400年前ケプラーが計算(もちろん筆算)の上で発見したものです。その2回目または3回目に重なり合った木星土星がベツレヘムの星とすると,クリスマスは9月12日または12月17日となります。ただ両惑星は1度も離れているのが難点です。3連会合は非常に希な現象で,実際に起こる年を計算してみると1800年から2300年の間に1821年,1940年,1981年,2279年のわずか4回のみです。しかしケプラーは1604年に自分が見たような超新星を想定していたようです。
    この表のうち最も接近するのはBC2年6月15日の金星と木星で,その2ケ月後の8月24日の日の出前にししの足元で起こった3惑星会合は最も目を引くような天象だったと思われます。薄明の中,これら3惑星と近くに金星も見えるのですから(右図はステラナビゲータによって作成) 。ただし地平線近く日の出前の短時間なので,その時雲ったら,東に山があったら全く気づかれません。「ベツレヘムの星」がユダヤ以外には記録がないのはそのためかもしれません。もちろん今の日本ではとても無理ですね。
     1年11月2日の日の出前 に水星・金星・火星・木星の4惑星がてんびん座で集まっています。それに先立って8月9日に水星と金星が,9月12日に水星と木星が接近しています。4惑星が集合することは希で注目したいですが,あまりコンパクトではなく,大きな明るい星の出現とは言いにくいです。それにヘロデ王の王位継承時期から離れてしまうのも難点です。なお,この間に5惑星会合は起こっていません。

     筆者は「ベツレヘムの星」とは
    BC2年6月15日の日没後,バビロンで西の空しし座に金星と木星の大接近を見た東方の博士は,救世主の誕生を信じてその方向へ旅たった。8月にユダヤに着き,8月24日の日の出前に見た火星・水星・木星集合がベツレヘムの星の正体であろう。
    と考えています。これによるとクリスマスは夏になり,ホワイトクリスマス,そりに乗ったサンタさんなどは南半球でないと出会えなくなります。